婚姻している者との間で不貞行為に及んだ場合であっても,その婚姻関係がすでに破たんしていると認められる場合には,特段の事情のない限り,慰謝料を支払う必要もありません(最高裁平成8年3月26日判決)。なぜなら,不貞行為によって婚姻関係を破たんさせたことの精神的苦痛を賠償するのが慰謝料であり,すでに婚姻関係が破たんしていたのであれば,損害を賠償する必要はないからです。
もっとも,裁判所は婚姻関係の破たんについて,かなり厳格に判断しています。すなわち,婚姻関係が破たんしていると認められるためには,婚姻関係が修復することが不可能な程度に悪化していて,婚姻共同生活を回復できる見込みがないことが客観的に認められなければなりません。
たとえば,別居してから数年が経過しており(単身赴任等ではなく,少なくとも一方当事者の意思による別居に限ります。),事務連絡を除いてほとんど交流もなく,婚姻費用についてもそれぞれ独立していて分担している事実がないといった事情がなければ,婚姻関係が破たんしていたと認められる可能性は低いです。
今回のケースでは妻との関係はもうとっくに破たんしている,ほとんど会話すらしないと言われたとのことですが,破たんしているかどうかは裁判所が判断することですので,会話がほとんどないとしても,別居すらしていないのであれば,婚破たんが認められる可能性は極めて低いといえます。今回のケースでは,慰謝料の支払請求が認められる可能性が高いと言えそうです。